キャッチボールが苦手だった。
グラウンドに立っても、ソウタにはキャッチボールの相手がいなかった。
年下の子でさえ他の子と組んでいて、ぽつんと一人でいたソウタ。
「一緒にやろう」と声をかけても、軽く断られる。
そのたびに彼は笑っていたけれど、あの笑顔が一番つらかった。
その様子を見るのが、どうしても耐えられなくて――
私はグラウンドに行けなくなった。
「今日はどうだった?」と聞くのも怖くて、
「辞めてもいいんだよ?」とつい口にしてしまった。
でもソウタは、静かに「辞めない」と言った。
それからは父にグラウンドを任せた。
父も時間があればキャッチボールに付き合ってくれた。
休みの日も、仕事から帰ってきたあとも。
「もう一回やるか」とグローブを持ち出して、何度も何度も投げ合った。
私は平日の夕方、ソウタとキャッチボールを続けた。
「どうか少しでも上手になりますように」って、願いながら。
上達のスピードは遅かったかもしれない。
でもある日ふと、グラウンドでソウタが「キャッチボールしよう」と誘われていた。
その瞬間を見た時、込み上げてくるものを抑えきれなかった。
「下手だったら仲間に入れない」そんな現実に向き合いながら、
それでも「辞めない」と言ってくれたソウタ。
父も、母も、できることで支え続けたあの時間があったから、今がある。
これからもきっと壁はある。
でもあの日々があるから、きっと乗り越えられるって思える。
いま同じような経験をしているみなさまへ。